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    セバスチャン・レリオ『ナチュラルウーマン』
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      セバスティアン・レリオ,ゴンザロ・マサ,ジェフ・スコール,ジョナサン・キング
      アルバトロス
      ¥ 3,256
      (2018-08-03)

      私はメンタル面で男であり、かつフィジカル面でも男である。その意味ではストレートである(敢えて「ノーマル」とは言うまい)。しかし、もし仮に心の性が身体の性と一致しないとするなら、その人間は巨大な矛盾を抱えて生きることになる。その辛さは想像を絶するものだろう。『ナチュラルウーマン』を観ながら、そんなことを考えた。

       

      セバスチャン・レリオ『ナチュラルウーマン』は非常にシンプルな映画である。あるトランスジェンダーの人物であるマリーナが、ボーイフレンドのオルランドと暮らしている。だが、オルランドは突然の死を遂げる。オルランドの葬儀に出たいと考えるマリーナは、しかし彼女(と敢えて書く)の性を理解しないオルランドの家族たちに止められる。なんとかして葬儀に出たいと考える彼女だったが……というのがプロットだ。ちなみにこの映画、音楽はマシュー・ハーバートが手掛けている。そう考えるとその渋さに納得がいくというもの。

       

      私の話をする。私自身、自分がどうして普通/ノーマルじゃないんだろうと自責の念を感じて生きていた時代がある。今でこそ発達障害という言葉が通じるようになって世間の理解――もちろん、当事者も世間を理解する寛容さ/多様性を持つべきなのは言うまでもないが――が進んで来たが、かつて「アスペルガー症候群」だった頃は見た目で理解されるような障害ではなかったので、苦しい思いに悩まされていたのだった。その意味でマリーナの生きづらさは、マイノリティの生きづらさであり理解されない者の生きづらさとして共感出来るところがあった。

       

      だが、この映画はくどい印象を与えない。お涙頂戴ではないというか、非常に淡々としているのだ。頓珍漢が売りの私なのでまたしても頓珍漢なことを書くが、この映画の静謐さは例えばホセ・ルイス・ゲリンの『シルビアのいる街で』にも似ているように思った。洗練された都会的/アーバンな撮り方/語り口で綴られる映画だなと思ったのだ。光の当たり方の繊細さ、凝り方が単純なようで深味を備えているな、と。この監督、これ以降の作品もチェックしてみたいと思わされた。話題が先行して内容が空疎な映画であるわけではない、と。

       

      LGBTQ の生きづらさを語るとなると、どうしてもセンセーショナルな語り口が求められるきらいがある。炎上目的、と言えば伝わるだろうか。繰り返すが話題性だけが先走り内容がお粗末という結果に下手をすると堕ちかねない。その意味でこの映画はマリーナの生きづらさを、メロドラマティックにというのではなく地味に、しかし手堅く描いているように思われた。二箇所ほど凝り過ぎな演出が観られるが(パントマイムよろしく逆風が見えない壁となって立ちはだかる場面、天井に飛翔する場面)、それ以外は地に足が着いていて理解出来る。

       

      裏返せば、理解出来てしまうが故にこちらの期待を裏切らない LGBTQ 観で留まっているという危惧も感じなくもない。ただ単に弱者の側からオカマ呼ばわりされる人間の辛さを説いているところに留まっていて、その状況を打破するなにかを見せてくれない……というと酷だろうか。オカマ呼ばわりされることに甘んじないマリーナの行動はその意味でもっと注意深く観られる必要がある。個人的に LGBTQ に関しては――私自身、そもそもフェミニストでもなんでもないので――語れば語るほどボロが出てしまう無理解があるからなのかもしれないが、その落ち度を踏まえても難しい映画だと思わされた。

       

      ともあれ、あまり期待しないでチリの新鋭の監督の映画というだけで手にしてみた映画だったのだが、結果としては大当たりというところに落ち着く。先にも書いたけれどホセ・ルイス・ゲリン『シルビアのいる街で』のような、地味で落ち着いた映画が好きな方なら観てみても損はないのではないかと。私自身が今なお発達障害者として生きづらさを感じているからか、マリーナの「困難が人を強くする」と自分に言い聞かせる姿は沁みるものがあった。世間の無理解に対し、しかし被害者面するのではなく愚直に「NO」と言い放つ、そんな凛とした逞しさを感じたのである。

       

      マリーナは最後の最後、ステージで歌を歌う。彼/彼女はその瞬間、性差を超えた人物として――「歌姫」ではなく!――ソプラノ(?)を響かせる。そんな締め方の深味も含めて、良い映画だと思われた。これもまた繰り返しになるけれど、マシュー・ハーバートによる音楽も秀逸。さほど予算が掛かっていない映画だと思う。小ぶりだけど、キュッと引き締まった映画、というか。これからどんどん LGBTQ と「ノーマル」の「相互」理解が進んでいく時代の風潮が増している。その時代の流れを読むためにも、この映画をお薦めしたいと思う。

      | 映画 | 13:24 | comments(0) | - |
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