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マーティン・スコセッシ『タクシードライバー』
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    今から遡ること20年くらい前に、初めてこの映画を観た。まだ映画に関してシロウトで、それどころか映画嫌いだった頃の話である。そんな私が何故この映画を観ようと思ったのか、特に記憶にない。強いて言えば、村上龍の小説がこの作品に似ているからと言われたことが挙げられるかもしれない。

     

    私はその頃からウェブサイトをやっていて、まめに日記を更新したりしていた。この作品を観終えたあとも感想を書いた記憶がある。手元にデータはないのだけれど、不気味な作品だなというような、我ながら実に幼稚な感想を書いたのだった。ただ、その感想は今回の鑑賞でも変わることはなかった。今ならその不気味さの理由を説明出来る気がする。何処から語ったら良いだろうか。まず、この映画を「タクシードライバーが娼婦を救う話」と捉えると火傷を負ってしまうというところから始めたい。この映画の主人公トラヴィスはヒーロー的存在ではない。以下ではネタを割る。

     

    トラヴィスという、不眠症でタクシードライバーになる男について映画は特に深く語らない(従って、彼がヴェトナム戦争の帰還兵であるという設定もさほど浮かんで来ない)。トラヴィスは特に宛もないまま運転を続けて、様々な乗客を乗せる。アルベール・カミュ『異邦人』よろしく、不気味に選挙運動中のスタッフの女性をデートに誘い一緒にポルノ映画を観ようと試みる。そんな彼の前にアイリスという少女が現れる。彼女は娼婦であり、トラヴィスに助けを求めるが叶わない。アイリスはスポーツというポン引きとつるんで商売をしている。そんなアイリスをトラヴィスは解放する。これがこの映画のプロットである。

     

    と書くと、あたかもアイリスをスポーツからトラヴィスが助け出した話のように思われるかもしれない。しかし、事実は違う。アイリスはトラヴィスに対して、助けを求めたことは嘘だったと語る。ラリっていたから、あるいは……いずれにせよ嘘だったと。これがアイリスのトラヴィスに対するその場しのぎの嘘なのか本音なのか、映画は最後まで語らない。解釈は観衆に委ねる、というやつだ。アイリスは家出中の身だったのだがトラヴィスの手によって家に戻り、トラヴィスはヒーローとして新聞に載るのだった。しかし、騙されてはいけない。トラヴィスはヒーローなのか? アイリスは幸せになったのか? 映画がそこまで語っていないことに留意しなくてはならない。

     

    トラヴィスの行動は一見すると支離滅裂だ。ポルノ映画を観ようとデートに誘うあたりからして常軌を逸する人物であることは間違いない。だが、トラヴィスは世間体を気にしない。その意味では一貫している。やりたいようにやり、生きたいように生きる。その欲望/自由意志が目指すものを直感的に手に取ろうと試みて、大統領候補の暗殺まで試みるところに至る。この暴走の理由についても映画は語らない。ヴェトナム戦争の遺恨? それは深読みというものだろう。それだったら時流の流れとともに映画は古びてしまうからだ。

     

    トラヴィスの行動を見て、私はふとデヴィッド・フィンチャー『ファイト・クラブ』を連想した。『ファイト・クラブ』に出て来るタイラー・ダーデンという男のことを考えたのだ。タイラー・ダーデンもまたやりたいようにやり、生きたいように生きる自由奔放な人間だった。その自由さ、豪快さにカリスマ性が備わっていた。だから彼についていく男たちも居た。トラヴィスはその意味でタイラー・ダーデンの先祖と言えるのかもしれない。トラヴィスの行動を止める者が居ないところ、彼についていくフォロワーが居ないところは違うのだけれど。

     

    生きたいように生きる男……誰もが憧れるのではないか。常識を超えて、自由意志に従って生きる男。トラヴィスが例えば後の本田透の『電波男』でヒーロー的存在として語られるのも、その意味では合点がいく。私自身も生きるとしたらトラヴィスのように生きたいと思うが、しかし自由意志に従って奔放に生きる存在に不気味さを感じない人間など居ないのではないか。タイラー・ダーデンは結局カリスマ的存在になった挙げ句破滅を導いたし、トラヴィスも銃弾が飛び交う都市に帰っていく。その不敵なところ、ふてぶてしさに私はなんとも言えない不気味さを感じる。村上龍の小説と似ていると言えば確かに似ている。だから私は村上は村上でも村上春樹の方に惹かれるのかなと思ってしまった。

     

    とまあ話は脱線してしまったが、『タクシードライバー』のトラヴィスを目指して実際に肉体を鍛えて、犯罪に手を染める人間が出て来ないとは決して言えないのではないか。タイラー・ダーデンは結局アンチ・ヒーローとして描かれるが、トラヴィスはそうではない。トラヴィスの危険性/薄気味悪さを感じないとしたら、己の感性を疑って掛かった方が良いかもしれない。

    | 映画 | 19:26 | comments(0) | - |
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